欧米音楽に込められた力強い“メッセージ性”
バラク・オバマ新大統領就任式での大統領宣誓を前にして、ソウルの女王アレサ・フランクリンが愛国歌『 America(My Country 'Tis Of Thee)(通称:アメリカ)』を歌った。
「America(My Country 'Tis Of Thee)」
この曲の作詞者はサムエル・フランシス・スミス牧師で、その内容は、「我が祖国よ、美しい自由の国をたたえ私は歌う。父が骨を埋めた国、開拓者の誇りとする国。すべての山々から、自由よ鳴り響け」(木山ロリンダ・斎藤真由美訳)。メロディーは英国国歌から採られている。
この曲が初めて歌われたのが1831年7月4日のアメリカ独立記念日というから、リンカーンが1861年に大統領に就任するよりも30年も前のことになる。現在のアメリカ国歌「星条旗 The Star-Spangled Banner」は1931年に採用されたが、それまでの100年間、この曲が事実上のアメリカ国歌として扱われてきた。
またこの歌詞の冒頭部分は、公民権運動の指導者キング牧師が、1963年の“ワシントン大行進”の際に行った有名なスピーチ「I have a Dream(私には夢がある)」で引用された。
今回の宣誓式でアレサ・フランクリンが熱唱した約3分間は、オバマ新大統領が約19分間にわたって「自由と新生」を熱弁した就任演説の前奏曲とも言えるだろう。キング牧師の意志を受け継いだオバマ新大統領の演説が、歌の“メッセージ”と力によって、さらに強く米国民の心に共鳴を与えたようだ。
ベートーヴェンの「第九」
日本で年末に各地で演奏されるベートーヴェンの交響曲9番、いわゆる「第九」も、第4楽章の合唱の部分では、「人類はみな平等。自由を勝ち取ろう、世界の人々は兄弟のように愛し合おう・・・」などと訴えている。
「歓喜よ、神々の麗しき霊感よ、天上の楽園の乙女よ、我々は火のように酔いしれて、崇高な汝(歓喜)の聖所に入る。汝が魔力は再び結び合わせる。時流が強く切り離したものを、すべての人々は兄弟となる」
シベリウス「フィンランディア賛歌(Finlandia hymn)」
北欧のフィンランドは、長年にわたって帝政ロシアから圧政に苦しめられ続け、独立運動が起きていた。そうした政治的背景の中で、シベリウスが1900年に作曲した交響詩「フィンランディア」は愛国心を鼓舞する曲だった。その曲に挿入されている「フィンランディア賛歌」の歌詞は、1940年になって、シベリウスのメロディに詞をつけたものだ。当時、ソビエト連邦からの侵略によって国家存亡の危機に直面しており、フィンランド国民を奮起させる内容だ。「第二の国歌」とも言われている。
歌詞の内容は、「さあ立ち上がれ、スオミ、高々とあげよ。偉業の記憶の花束で飾られた自分の頭を。さあ立ち上がれ、スオミ、お前は世界に示した、他民族による支配をはねのけたことを、圧政に屈しなかったことを、お前の一日が始まるのだ、祖国よ・・・・」(松村一登訳)(注:スオミはフィンランドの正式国名)
愛と平和を訴えた「ウッドストック・フェスティバル」
1969年の8月、アメリカ、ニューヨーク州郊外の広大な農場で3日間にわたって開催された野外ロックコンサート「ウッドストック・フェスティバル」には、40万人を超す若者たちが集まった。ベトナム戦争が泥沼化する社会的背景の中、音楽を通じて、「愛、平和、反戦」と人間性回復を訴える大集会となった。その後、数多くのミュージシャン、フォークソンゴシンガーたちに大きなインパクトを与え、メッセージ性の強い伝説的音楽祭となった。
日本の歌と欧米の歌の違い
以上のように、クラシックやソウルミュージック、黒人霊歌など欧米の歌では、団結や生き方、博愛、自由、独立、愛国心、祖国愛、人類愛・・・・などをテーマとした“メッセージ”を強く訴える内容が多い。
1960年代に若者が好んで歌ったフォークソングの大半は、“反戦”をテーマとしたメッセージ性の濃い内容の曲だ。また我々に馴染みの深いミュージカルの中にも、「ウエストサイドストーリー」や「ポギーとベス」「屋根の上のバイオリン弾き」などのように、人種問題をテーマとした物語も多い。華やかなステージの演出にも、メッセージが組み込まれている。
一方で日本の音楽は、悲しみ、喜び、熱愛、恋愛、懐かしみ、美しさ、幸せ、酒、花・・・など、人の感情など、心の内面をテーマとした内容が多い。いわば音楽に、“安らぎ”や“癒し”“快楽”“情緒”を求める傾向が強い。
欧米の音楽を聴く時、日本の曲と同じ視座に置い聞くと、その意味の深層を正しく理解することは出来なくなる。
「第九」も、「ともに喜び合おう」と歌ったのでは、ベートーヴェンが描いた意図を汲むことは出来ないような気がする。





